あなたには、どうしても気に食わない人、見ているだけでも(もしくは考えただけでも!)あなたをイライラさせる人がいませんか? ときには、理由はよくわからないのに嫌いだと感じることもあります。
いずれにしても、嫌いになる原因は、当然その相手にあると考えがちです。でも、その原因は、自分自身が気づいていない、自分の人格の別の面を、相手に押し付けている(投影している)ことにあるのかも知れません。
ユング心理学ではこのような自分の人格の別の面を、『影(シャドウ)』と呼んでいます。以下のブログでもご紹介しましたが、ほんとうの癒しを得るために、ありのままの自分を受け入れるには、自分の影の存在を知ることが重要だと思います。
今回のブログでは、自分自身の影に気づき、対処する方法について探っていきます。
影(シャドウ)が生まれる理由
ユングは、影について、「そうなりたいと願望を抱くことのないもの」と述べています(『ユング心理学辞典』創元社 p.30 『影』参照)。
私たちの価値観が作られる過程の中でその価値観に合わないものは、抑圧されるか、無視されるなどして無意識という心の領域に追いやられます。こういったものがユングのいう「影」になります。
たとえば、感情を示すのが恥ずかしいことだと信じ込んでいる人にとって、何かに怒りを感じたり悲しみを感じたりするという心の部分が、無意識下に沈み込みます。この場合、感情的な人格がその人の影になるのだと思います。
また、なんでも完璧にやらないと気が済まない人にとって、少しでも手を抜いたりいい加減にやるということは、悪であるとして意識の外に追いやられ、その人の影になるでしょう。
影は私たちにどう作用する?
①影の投影
自分がそのような影をもっていることを認めるのは気分のいいものではありません。そのため、自分の人格の嫌な側面である影を、他の人に押し付けてしまうことがあるようです。これを、ユング心理学では、影の投影と呼んでいます。
「患者が対象に否定的なものを投影し、その結果としてその対象を嫌悪したり忌み嫌うとしたならば、患者は自己の劣等な側面いわば自己の影を投影していることに気がつかなければなりません。それは、自分自身を楽観的で、一面的なイメージとして把えたいからなのです。」
『分析心理学』(C.G.ユング 小川捷之訳 みすず書房 p.259)
影が他の人に投影されることで、私たちが嫌悪する部分をその人がもつように感じるため、その人のことがとても嫌いになったり、私たちを苛立たせる対象となります。
②影は夢に現れる
夢では、影は同性の人物として現れることが多いようです。それも自分とタイプが違う、気に食わない、苦手な人物として現れるようです。
たとえば、自分が内向的なタイプの場合、影のイメージとして、外向的なタイプの人物が夢に登場することがあります。反対に、自分が外向的なタイプの場合、夢に出てくる内向的なタイプの人物が、自分の影を表しているかも知れません。
また、未知の人物だったり、昔の知人(たとえば小学校時代の友人など)が、何か未熟で嫌な感じを受ける人物として夢に現れた場合、それは影のイメージである可能性が高いようです。
その人がどのような性質をもっているのかをよく考えてみることで、自分の影を知ることができるかも知れません。
③私たちの心を支配してしまう場合がある
影は、私たちがもつ自然な欲求に対して素直な人格を表していると思います。自然はバランスを好みますから、抑圧されるとかえって大きくなります。
影を自分の一部と認めたくないあまり、抑圧しすぎたり、ないものとして扱うと、その存在は無意識下でますます大きくなり、影が突然、私たちの心を支配してしまう危険性が出てきます。影の反乱です。
たとえば、ちょっとしたきっかけで、おとなしい人が急に暴力的になったり、いつも冷静沈着だと思われていた人が急に泣き出したりするのは、自分の影を抑圧しすぎているのかも知れません。
「影をもつことに気づかないと、自分の人格の一部分を非存在だと宣言することになります。するとそれは非存在の国に入り、膨張して、途方もない大きさになるのです。自分がその性質をもっていることを認めないとき、あなたはまさに悪魔に食物を与えて太らせているのです。」
『夢分析I』(C.G.ユング 入江良平訳 人文書院 p.85-86)
影を抑圧しすぎると、ついには影が私たちの心を乗っ取ってしまう可能性もあります。これが二重人格です。
影とどう付き合えばいいのか
①自分の影の存在を認める
無意識のうちに影を膨らませてしまい、影に支配されてしまわないためには、自分の影の存在を認めることが重要だと思います。
自分自身の人格の嫌な部分を直視するという作業は、たいへんな苦痛を伴うでしょう。ですが、ほんとうの心の癒しを得るには、必要なチャレンジだと思います。
たとえば、私たちの周りを見渡してイライラさせる人を見つけたら、その人の性質は元々自分がもっているものなのではないかと疑うだけでも、影の意識化が進むと思います。そうすれば、少しは心のざわつきが解消されるかも知れません。
②影を認めることが心の癒しにつながる
影は、これまで意識されてこなかった私たちの一部分です。そのため、影を自分のものとして認めることで、これまで感じたことがないことを感じられるようになり、気づかなかったことに気づけるようになる可能性があります。こういった素直な心の状態になることで、私たちの心に宿る癒しの力が働きだすでしょう。
「もし心の構えがこのようになるならば、人間の心の奥深くにまどろんでいる救いの力が目覚めて働きだすことができる。」
『元型論』(C.G.ユング 林道義訳 紀伊國屋書店 p .49)
まとめ
今回は、私たちの心に潜む影(シャドウ)についてご紹介しました。
私たちの暗い人格の側面である影を自分のものとして認めることで、ありのままの自分を受け入れることにつながると思います。このような心の状態になることで、ほんとうの癒しがもたらされるかも知れません。
「自分自身との出会いはまず自分の影との出会いとして経験される。」
『元型論』(C.G.ユング 林道義訳 紀伊國屋書店 p .49)
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